ケルダール vs デュマ — 概要と比較


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たんぱく質の含有量は食品および飼料分析における重要なパラメータの 1 つで、材料の栄養価のキャラクタリゼーションに不可欠なものとなっています。その他の重要な構成成分には、脂肪、食物繊維、炭水化物、および水分や灰分などがあります。栄養表示要件に加え、たんぱく質含有量も食品加工に重要な役割を果たす場合があります。たとえば、小麦粉の最適な用途はたんぱく質含有量に左右されます。含有量の低いもの (~ 8%) は一般的にケーキやペストリーなどに使用されており、含有量の高い (~ 12%) 小麦粉はパンに使用されています。近赤外分光法 (NIR) および近赤外透過分光 (NIT) など、たんぱく質含有量およびその他の構成成分を予測する分光技術がいくつか存在しますが、これらは大がかりなキャリブレーションを必要とすることから二次的な手法と考えられています。また、マトリクスの些細な変化にも敏感に反応するため、NIR のキャリブレーション範囲も限られています。より一般的なたんぱく質測定手法としては、古典的な湿式化学技法であるケルダール法や燃焼式のデュマ法があります。いずれの手法も実際には窒素を測定するもので、直接たんぱく質の値を測定するものではありません。たんぱく質の値は、窒素たんぱく質換算係数を使用して窒素の値から算出するもので、生体マトリクスの窒素源がたんぱく質であるという仮定に基づいています。窒素たんぱく質換算係数は食品材料によって異なる場合があり、多くの場合政府および国際的に定められた標準手法により指定されています。たとえば窒素たんぱく質倍増係数は、牛乳および乳製品で 6.38、トウモロコシおよび穀類で 5.8、肉類および魚類で 6.25、大豆で 5.71、およびマッシュルームで 4.17 となっています。

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図 1:LECO 社の代表的なデュマ法分析装置 828 および 928 シリーズ

ケルダール法は、19 世紀終わりごろから主要な手法となってきました。コペンハーゲンにあるカールスバーグ醸造所を経営していたジョン・ケルダールによって、新しい大麦醸造材料のたんぱく質含有量を測定・評価するための信頼できる手法を求めて開発されたものです。
ケルダールの窒素測定法は、古典的な湿式化学分解および滴定法です。1883 年に開発されて以来、この手法は飼料および食品材料中のたんぱく質総量の測定手段として広く受け入れられてきました。一般的に、この手法は以下の手順で行われます。

  • 1. 濃硫酸により試料を分解し、キャタリストを使用して試料中の窒素を硫酸アンモニウム(NH4)2SO4 に変換する。
      試料試料サイズは一般的に 100 mg ~ 1 g。
  • 2. 濃水酸化ナトリウム (NaOH) を使用して分解物を中和し、硫酸アンモニウムを NH3 に変換する。
  • 3. NH3 を蒸留して酸標準溶液中に捕集し、アルカリ標準溶液で逆滴定を行い定量する。

ケルダール法はほとんどすべての食品材料に対応可能なため、食品および飼料の分析や規制の分野で広く受け入れられていますが、この手法には不利な点も多くあります。まず第一に、ケルダール法では窒素の回収が不完全であるという点があります。ケルダール法に最も適しており、かつ効率的なキャタリストには水銀やセレンが含まれており、これらは環境問題および当局規制などの理由で現在は使用されていません。より効率の落ちる CuSO4/TiO4 ベースのキャタリストが代替として使用されていますが、結果として分解中の窒素回収率が低下してしまいます。分析に要する時間も、使用する具体的な手順や試験対象となる材料によっては数時間におよぶ場合があります。この手法には濃酸および濃塩基を使用する手順が含まれているため、訓練されたラボ技術者と適切な安全装備、ドラフトの使用を必要とします。また、廃棄物の適正処理といった問題もあります。

燃焼式のデュマ法は、フランス人化学者ジャン-バティスト・デュマにより 19 世紀前半に開発されました。デュマ法のほうが歴史が古いものの、登場から最初の 100 年間はケルダール法のほうが手法としては優勢でした。これは、湿式化学技法に比べて燃焼式技法のほうがより高度な技術的熟練が必要だったためです。しかし、こうした状況は近代的な分析装置の進歩により変化し、今では燃焼式の窒素測定が確立された標準的手法となっています。

一般的に、デュマ法では以下の手順を使用して窒素の測定を行います。

  • 1. 酸素を使用して試料を燃焼させ、たんぱく質由来窒素を N2/NOx 混合ガスに変換する。
  • 2. NOx を N2 に還元し、ほかの燃焼ガス (O2、CO2、および水蒸気など) は除去する。
  • 3. 熱伝導度検出器 (TC) を使用して窒素の測定を行う。測定された窒素含有量とたんぱく質係数を使用して行う
      たんぱく質含有量の算出は、これ以降ケルダール法と同じように行われる。

LECO 828 および 928 シリーズなどの最新のデュマ法分析装置では、試料の導入にスズ箔、カプセル、燃焼ボートのいずれかを使用します。固体試料、液体試料、スラリー試料の場合、特別な変更を加えることなく試料を投入できます。液体サンプラーを使用したり、特別な手順を使用したりする必要はありません。試料の燃焼は純酸素環境で行われるため、マトリクスに依存することなくシステムを動作させることができます。一般的な分析時間は最大 3 分ほどで、窒素酸化物の還元試薬は、システムの設定しだいで最大 4,000 分析まで継続使用が可能です。

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図 2:燃焼カプセル、燃焼ホイル、および燃焼ボート

長年にわたり、デュマ法とケルダール法は多くの研究や論文で比較されてきました。表 1 に、一般的な比較試験の値を示します (比較試験
および使用試験から収集したサンプルデータ)。

表 1:一般的な食品でデュマ法およびケルダール法を使用した測定結果の比較

食品の種類 デュマ法による窒素含有量 [%] ケルダール法による窒素含有量 [%]
粉乳 4.98 4.96
生乳 3.58 3.55
血粉 14.44 14.39
小麦粉 2.66 2.67
乳幼児食 1.98 1.96
ハム 3.17 3.12
米粉 1.48 1.49

表 1 に示すとおり、デュマ法とケルダール法の値は広範囲にわたる食品材料で一致していることが分かります。一部の試料では、ケルダール法のほうがデュマ法の値を若干下回っています。一般的な食品試料および飼料試料における全体的な差異は、およそ 1 ~ 2% です。

多くの食品研究所では、食品および飼料中のたんぱく質測定の優れた手法として、ケルダール法の代わりにデュマ法を採用するか、ケルダール法に加えて採用するかたちを取っています。表 2 に、食品分析にデュマ法を採用している公定分析条件の例をいくつか示します。ケルダール法と比較して、デュマ法の重要性がより高まっていることが分かります。デュマ法における唯一のマイナス要素は、ケルダール法と比較して分析装置にかかるコストが高額であるということですが、これもランニングコストを考慮に入れるとすぐに解消できるものであることが分かります。

表 2:デュマ法を採用した国際的な公定分析条件の一覧 (抜粋)

公定分析条件 説明 発行機関
AOAC 992.23
穀粒および油糧種子における粗たんぱく質
AOAC
AOAC 992.15 食肉と肉製品中の粗たんぱく質 AOAC
AOAC 992.03
動物飼料中の粗たんぱく質
AOAC
BA4E-93 油糧種子における粗たんぱく質 AOCS
ISO 14891:2008
窒素含有量の定量 — デュマ法の原理による燃焼を用いた定常法
ISO
ISO 16634-1:2008 燃焼による全窒素の定量および粗たんぱく質含有量の定量…油糧種子および飼料 ISO
ICC Norm 167
デュマ燃焼原理による食品および飼料の穀類および穀物製品中の粗たんぱく質の定量
ICC
OIV-MA-AS323-02A デュマ法による全窒素定量(マストおよびワイン) OIV
BVL L 03.00-27:
およびその他
§ 64 LFGB ドイツ食品法
Official Methods Germany

デュマ法による燃焼メソッドの利点の概要を以下に示します。

スピード:デュマ法では 3 分で分析が完了する。ケルダール法では数時間を要する。

スループット:LECO のデュマ法分析装置を使用した場合、150 試料を 9 時から 5 時までのあいだに分析可能。

分析あたりのコスト:燃焼式デュマ法分析装置のランニングコストは、従来の湿式ケルダール法と比較してはるかに低くなる。

環境および安全性の問題:燃焼式デュマ法分析装置では、湿式ケルダール法で必須とされる濃酸や濃塩基の使用、廃棄物処理、およびドラフト使用の必要がない。

効率性と自動化:試料は、秤量後に燃焼式デュマ法分析装置のオートローダーに配置すると、その後のすべての分析手順が自動的に実行される。装置ソフトウェアにより結果の計算が行われ、ラボラトリー情報管理システム (LIMS) に送信可能な状態で提供される。

標準適合性:表 2 に示すとおり、燃焼式デュマ法は確立された標準的手法となっている。

上記に示した利点を考慮すると、将来的に食品・飼料業界では湿式ケルダール法から燃焼式デュマ法への置き換わりが一層進むことになるでしょう。