緒言
食品および飲料の香りにはオルソネーザルアロマ(口に入れる前に鼻から嗅ぐ香り)とレトロネーザルアロマ(口に入れて飲み込むときに鼻から抜ける香り)の2種類があり、食品および飲料のおいしさにはレトロネーザルアロマが大きく寄与しているといわれています。
そこで、本アプリケーションノートでは、レトロネーザルアロマを呼気サンプラーで採取し捕集管に吸着させ、加熱脱離装置によりGC-TOFMSへ導入し、レトロネーザルアロマの簡易分析を試みました。
実験
オレンジジュースを飲みこんだあとに鼻から出る息を呼気サンプラーBioVOC-2TM (MARKES)により採取し、捕集管TenaxTA(MARKES)に捕集しました。さらに加熱脱離装置(HandyTD, GLサイエンス)を用いてGC-TOFMS(Pegasus BT, LECO)へ導入し、分析を行いました。同様にしてブランク(水を飲んで鼻から出る息を採取)の測定も行いました。GC-TOFMS分析条件を表1に示します。
得られたクロマトグラムからChromaTOFソフトウェア(LECO)の自動解析機能によりデコンボリューションによるピーク検出、NISTによるライブラリ検索を行いました。
また、ChromaTOFソフトウェアのReference機能を使用して、ブランクとオレンジジュースのレトロネーザルアロマの比較を行いました。Reference機能は一つのサンプルから検出された全化合物または指定化合物の面積値を100として他サンプルとの比較を行う機能です。ここではブランクを基準として面積比が120より大きいものを抽出しました。

BioVOC-2TM
GCxGC-TOFMS condition for the sample analysis | |
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Injection | Handy TD |
Injection method | 加熱脱着法 |
Inlet Mode | Split 1/5 |
Inlet Temperature | 250 ℃ |
Carrier Gas | Helium, 1 mL/min |
Column | BP-20, 60 m x 0.25 mm ID, 0.25 µm film thickness |
Oven | 40 ℃ (1.5 min) → 10 ℃/min → 250 ℃ (10 min) |
Transfer Line Temperature | 250 ℃ |
Source Mode | EI |
Source Temperature | 230 ℃ |
Detector | LECO Pegasus BT Time-of-Flight Mass Spectrometer |
Acquisition Rate | 10 spectra/sec |
Stored Mass Range | 35 to 500 u |
Data Processing | |
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Software | ChromaTOF ver.5.51 |
Peak Finding | True Signal Deconvolution |
Library | NIST14,Wiley9,FFNSC3 |
表1.GC-TOFMS分析条件
結果
レトロネーザルアロマのクロマトグラムから、ChromaTOFソフトウェアによる自動ピーク同定を行った結果、約200ピークが検出されました。(図1)
また、Reference機能による比較結果から、オレンジジュースのレトロネーザルアロマから検出された化合物を表2に示します。いくつかの化合物は、トータルイオンクロマトグラム(TIC)では差が見られず、手動解析で差を見出だすことは困難と考えられました。(図2)

図1. ブランクおよびオレンジジュースサンプルのクロマトグラム

表2.オレンジジュースのレトロネーザルアロマから検出された化合物
(化合物名はライブラリ検索結果1位のものです。)


γ-Terpinene溶出位置の拡大クロマトグラム (2H) – furan – 3 – one溶出位置の拡大クロマトグラム
図2 Reference機能により差が検出された化合物の一例
結論
Pegasus BT GC-TOFMSを使った分析により、簡易的にレトロネーザルアロマの微量な香気成分を検出することが可能でした。
また、Reference機能によりTICの重ね書きでは差が見いだせない化合物を検出することが可能でした。