におい嗅ぎ-GC-MSによる食品、フレーバー、香料の分析
Elizabeth M. Humston-Fulmer, Joseph E. Binkley, Lorne M. Fell; LECO Corporation, Saint Joseph, Michigan, USA
緒言
GCMSは様々な食品、フレーバー、香料のキャラクタリゼーションにおいて重要なツールとなっています。サンプルの香りに寄与する化合物は揮発性および半揮発性化合物の傾向があり、GCMSはこのタイプの分析に適しています。複雑なサンプルはGCで個々の化合物に分離され、飛行時間型(TOF)MSはサンプルのこれらの潜在的に重要な化合物の同定に向けた情報を提供します。TOFMSのデータはライブラリ検索可能で、デコンボリューションアルゴリズムにも適しています。これらのデータとにおい嗅ぎシステム(O)の組み合わせは、同定された化合物とフレーバーの全体的な香りへの寄与を関連づけるのに役立ちます。また、このタイプの官能分析は関心のある領域に印をつけて、特定の化合物につなげることにより、データの焦点を絞ってレビューすることができます。GC-MS-Oは化合物の分離と同定を可能にし、サンプルの官能的特徴に最も寄与している化合物を決定することができます。様々なサンプルがGC-MS-Oにより分析され、これらの情報を一緒に使う利点が明らかにされました。
実験
様々なサンプル(エッセンシャルオイル、飲料等)がGCMS(LECO Pegasus BT)とにおい嗅ぎシステム(GLサイエンス Phaser Pro)の組み合わせで分析されました。
これらの装置の組み合わせは下記に示すように補完的な方法で使用されました。
・複雑な混合物中の化合物の分離
・分離した化合物の同定
・化合物と官能評価を結びつける
GC | MS | O | |
---|---|---|---|
複雑な混合物中の化合物の分離 | クロマトグラフィー分離 | GCで共溶出した化合物のデコンボリューションによる分離 | |
分離した化合物の同定 | 溶出順(RI)によるマッチング | ライブラリとのスペクトルマッチング | 既知の香りの属性との マッチング |
化合物と官能評価を結びつける | 文献情報 | 嗅覚での直接的な検出 |
この装置の組み合わせは複雑なサンプルをより理解することにつながります。
ナツメグのキャラクタリゼーション
GC-MS-Oはサンプル中の特徴的な香気成分を決定するのに役立ちます。GCは複雑な混合物中の個々の化合物を分離し、Oは特徴的な香りの領域に印をつけることができます。MSは特徴的なピークを一時的に同定します。図1に示すナツメグのクロマトグラムでは、4つの異なるアロマノートがありました。1つは大きなS/Nのピークで、2つはそれより低いS/Nのピーク、そしてもう一つはデコンボリューションなしではあいまいなピークでした。これらの化合物について表1と図2~4に示します。
図1ナツメグのエッセンシャルオイルの代表的なクロマトグラムを示します。縦線はピークマーカーで、S/N上位10個のピークを表します。茶色の部分は特徴的なナツメグの香りの領域を示します。これらピークの詳細を表1に示します。
表1 図1のピーク情報を示します。太字は縦線のピークマーカーに、茶色の行は茶色の領域に対応しています。
図2 α-pineneはS/Nが大きく、特徴的なアロマノートをもっています。
図3 特徴的なアロマノートのひとつ(ピークb)は他の2つの化合物(ピークaとc)との共溶出によりあいまいでした。においかぎのデータも共溶出した化合物の香りが組み合わさったものでした。
デコンボリューションにより共溶出化合物(化合物a,b,c)が分離され、においと対応する化合物が紐づけられました。
2つの特徴的なアロマノートは低いS/Nをもつ化合物でした。におい嗅ぎのデータはGCMSにより低濃度と決定されたこれらの化合物への注意を引き出します。
図4 2つの特徴的なアロマノートは低いS/Nをもつ化合物でした。におい嗅ぎのデータはGCMSにより低濃度と決定されたこれらの化合物への注意を引き出します。
シラントロ(コリアンダー)の香りの違い
GC-MS-Oは香りの感覚の違いを理解するのに役立ちます。シラントロの香りは遺伝によって石けん様のにおいと認識されることがあります。におい嗅ぎのデータは、シラントロを石けん様として認識する人かどうかによって、異なる嗅覚記述子を持つ化合物を明らかにしました。それらの化合物はGCMSで一時的に同定されました。図5、6に示すように、4つのアルデヒドに印がつけられ、同定されました。
図5 シラントロのエッセンシャルオイルの代表的なクロマトグラムを示します。緑の部分は石けんのようと記述した人もいれば石けんのようではないと記述した人もいるピーク(a,b,c,d)を表します。嗅覚記述子はピークごとにリストされました。
図6 ピークa~dのスペクトルおよびリテンションインデックス情報を示します。これらのアルデヒドは図5に示したように、人によっては石けん様と認識され、人によってはそうでないと認識されました。
ビールの異臭
GC-MS-Oはサンプルまたはプロセス中の異臭およびその他の品質管理上の問題のトラブルシューティングに役立ちます。このアプリケーションでは図7に示すように、ビール中のプラスチック様の異臭が決定され、一時的に同定されました。この同定は異臭の原因に対する洞察を与え、トラブルシューティングプロセスの方向性を提供します。
図7 プラスチック様の異臭は発酵後のビールの小さなバッチであらわれました。異臭はクロマトグラムで検出され、スペクトルとRIマッチングによりスチレンと同定されました。スチレンはケイ皮酸の脱炭酸により生成される可能性があります。この反応は酵素活性や温度により引き起こされます。ケイ皮酸濃度(シナモンを加えることによりビール中に存在する)、温度変化、酵母活性はすべて、トラブルシューティングで追求する項目として特定されました。
結論
この研究では、GC分離とMSおよびOの組み合わせは、個々の化合物を分離し、分離した化合物を同定し、それらを官能評価と結びつけるためのパワフルで効率的な分析プラットフォームを提供します。それぞれのケースでGC分離とフルスペクトルのTOFMSデータは特徴的な香りの要因となっている化合物の同定に重要でした。この装置の組み合わせはナツメグのエッセンシャルオイルの香りに最も影響を与える成分のキャラクタリゼーション、シラントロの香りの感覚の違いの区別、ビールの異臭の決定に有用でした。