多次元クロマトグラフィーワークショップインタビュー(2023年12月収録)

本インタビューでは、多次元クロマトグラフィーワークショップの企画委員会との座談会をお届けします。

インタビューグループは以下の通り:

  • Kate Perrault Uptmore(Assistant Professor of Chemistry at William and Mary)
  • PH Stefanuto (Lead Scientist at the University of Liege)
  • Dwight Stoll(Professor of Chemistry at Gustavus Adolphus College)
  • Petr Vozka (Assistant Professor of Chemistry at California State University at Los Angeles.)

LECOは2024年1月10日~12日にカリフォルニア州立大学、複雑化学組成分析研究所のPetr Vozka先生主催の多次元クロマトグラフィーワークショップの2024年スポンサーを務めました。
多次元クロマトグラフィーの魅力、必要性から先生方のご研究内容まで盛りだくさんの内容でお届けします。

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※開始から20秒までBGMの音量が大きいのでご注意ください。


<<内容詳細>>

Andrew Story:

LECO 社提供の Measured Science へようこそ。
本日は特別プログラムとして、多次元クロマトグラフィー分野のリーダーたちによるパネルディスカッションをお送りします。
米国 LECO 社質量分析部門でセールスマネージャを務める Dave Russ さんがディスカッションの司会をしてくださいます。この分野で働く皆さんやこの分野に関心をお持ちの皆さんにとって、楽しくて教育的なエピソードになればと思います。
Dave さん、あとはよろしくお願いします。ゲストの皆さんをご紹介ください。

Dave Russ:

Andrew さん、ご紹介ありがとうございます。
Multi-Dimensional Chromatography Workshop からお招きした本日のゲストの皆さんをご紹介します。
まず初めに、Katelynn Perrault Uptmor さんです。ウィリアム・アンド・メアリー大学で化学助教授を務めておられます。
次に PH Stefanuto さん、リエージュ大学で主任研究員をされています。
また、Dwight Stoll さんもお迎えしました。グスタバス・アドルファス・カレッジで化学教授を務めておられます。
そして最後に、Petr Vozka さん、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校で化学助教授をされています。
皆さん、本日のポッドキャストにようこそ。ご参加くださりありがとうございます。
本日は、Multi-Dimensional Chromatography Workshop について少しお伝えできればと思います。お聴きの皆さんにとっては、ワークショップ自体に関する話題のほかにも、このワークショップが始まったきっかけやこれまでの歴史などもお知りになりたいかと思います。

Katelynn Perrault:

では手始めに私の方からそのご質問にお応えしますね。
ちなみに今話しているのは Kate です。
このワークショップは毎年開かれていて、今回が 15 回目のカンファレンスになります。
なので、かれこれ 15 年続いているということになります。
長年にわたって続けるなかで形式は少しずつ変化してきましたが、そもそもはカナダで始まった取り組みです。
当時は LECO 社や他のベンダーからのサポートを得て、多次元クロマトグラフィー分野で重要な役割を担っている人々を一堂に集めることを目的としていました。
当初は環境省で開催されたのですが、このようなイベントを開催するには良い環境だったと思います。
Eric Reiner さんが主催で、最初は彼がこのカンファレンスの議長でした。
私は、大学院生時代にこのカンファレンスに参加できたことが本当にラッキーでした。無料でしたし、しかも近かったので参加したんですが、その瞬間からすっかり多次元クロマトグラフィーに夢中になってしまい、それからずっとこの分野でキャリアを積んできました。
それで、当初は本当にこの分野の主要人物や専門家たちが一同に会してこの分野の将来について語り合う手段の 1 つとして始まったのですが、それからというもの、学生たちやこの手法にまだ新しい人たちのための発見と学習の場、この分野の主要人物たちとの関係を構築する場となってきました。
人々が交流し、自分たちの携わっている物事について話し合う場所としては最高だと思います。常々思うのですが、ここは最初の予備的調査の結果を発表するには最高の場所です。ここでは必ずしも自分の研究を完全な形で発表したり、解明したりする必要がないからです。
でも、アイディアを持ち込んだり、場合によっては課題さえ持ち込める、実に素晴らしいフォーラムです。
というわけで、もう 15 年も続いているんです。
特に学生たちやこの分野に入ったばかりの人たちにとっては、関わり合いを深め、人脈の構築を始めるには最適な場所だと思います。

Dave Russ:

それは素晴らしいですね。
どうもありがとうございます。
それでは、まだこのワークショップの歴史をよく知らない方たちのためにお聞きしますが、どんな人たちにこのワークショップに参加してもらいたいと思われますか?

Dwight Stoll:

では私から、どんな人が参加したらよいか、どんな人たちをターゲットにしているかということについて少しお話したいと思います。
このワークショップは、様々な背景や経験レベルの方たちにとって素晴らしいイベントだと思います。プログラムでは、多次元ガスクロマトグラフィーおよび多次元液体クロマトグラフィーの両方のトピックをカバーする講演者やプレゼンターが登壇します。
業界を代表するアカデミックなバックグラウンドを持つ講演者から、政府機関や規制当局を代表する講演者までいます。
また、燃料分析から食品分析まで、幅広い応用分野を代表する講演者も登壇します。今回の目玉として、製剤分析の分野からも講演者をお招きしています。
まとめると、多次元分離に関心がある方でしたら、ほとんどの方が興味深く価値あるものをプログラムから見つけていただけると思います。
経験レベルに関して言えば、既に Kate さんが触れてくださっているとおりです。
我々のような、起きている間は四六時中多次元分離のことを考えているような人間にとっては、このワークショップは本当に素晴らしい場所です。このコミュニティでほかの人たちがこの 1 ~ 2 年どんなことをしてきたのか、最新の情報を効率的に知ることができます。
それから、このワークショップはもの凄く学生にやさしいです。
ポスタープレゼンテーションや講話を通して自分たちの研究をコミュニティに紹介する機会でもあり、人脈作りのための非常に大きな機会でもあります。
多次元分離のコミュニティにおける幅広い分野のプロフェッショナルたちとの関係を構築するのに、これほど効率の良い方法は他にないと思います。
そういったわけで、多次元分離に今現在携わっている方たち、または単に関心があるだけの方たちのどちらにとっても、何かを得られるのがこのワークショップだと思います。

Dave Russ:

素晴らしいですね。
今触れていただいた人脈作りという点、ちょうど次の質問にも少し関係するところでした。
昨年はリエージュでワークショップが開催され、今年 1 月はカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校で開催されます。
どういったいきさつで開催地がカリフォルニア州立大学ロサンゼルス校になったのか、少し教えていただけますか?

PH Stefanuto:

それについては私からお話しますね。
Eric Reiner さんが Kate さんと私にこのワークショップを託していかれた時、次の開催地について Kate さんと長い時間話し合いました。というのも、私たち 2 人とも新たな土地で新たな役職に就くことが決まっていたからです。
それで、私たちは基本的にワークショップを私たちと一緒に移動させることにしたんです。Kate さんが言われたように、カナダで開催された時、地元の方々にとって絶好の機会になったからです。完全に無料のイベントで、学生たちや新しいユーザーには多次元クロマトグラフィーを身近に感じてもらうことができ、専門家たちにとっては最先端領域に触れる機会となりました。
それで次はリエージュで開催することにし、その次は Kate さんが教鞭を取っていたハワイに場所を移しました。
その後はパンデミックの影響を受けてオンラインにシフトし、人々がカンファレンス出席のために旅行することに慣れていないような国々からも参加してもらえるようにしたことで、異なる層の聴衆にも機会を開くことができました。パンデミックが落ち着いた昨年は、リエージュの馴染み深い場所に戻り、そこから北米に戻ろうと考えました。
そして同じ時期に、Petr さんの多次元クロマトグラフィーにおける取り組みが注目を集めるようになりました。
彼が基調講演者として参加してくださったんですが、その時のお互いのやり取りがすごく良かったので、次にワークショップを開催するのに最適な場所について話し合い始めました。
すべては前回のワークショップから始まったんです。
Dwight さんも言われたとおり、このイベントは関係構築のための素晴らしい機会で、次の開催地についてのちょっとした話し合いから、あっという間に 2024 年の実現へと辿り着いたわけです。

Dave Russ:

素晴らしいですね。
私はそういった密接に結びついたコミュニティが大好きですし、それがどんなふうに広がっていくのか聞くのも大好きです。
Petr さん、今年のホストを務めておられますが、何か新しい情報はありますか?
ワークショップで予定されていることや、お知らせしたいことなどありますか?

Petr Vozka:

はい、既にたくさんの情報が紹介されていますが、私からは、いくつかのディスカッショングループを設ける予定があることをお知らせしておきたいと思います。多次元クロマトグラフィーのコミュニティを規制空間に移行させることに焦点を当てます。
この分野の専門家たちや、業界および学術界からの新しい参加者など、素晴らしい講演者の登壇が予定されています。
それから、ポスタープレゼンテーションが年々増えていますが今年も例外ではありません。
そこで、クロマトグラフィーおよび分離化学の部門から賞を用意し、ポスターセッションを盛り上げていきます。
それから、既に何度か触れられていますが、登録は無料です。加えて、地元の醸造所で開催するディナーなど、いくつか素敵なイベントも計画しています。
キャンパスにはキッチンカーを何台か持ち込む予定です。
LA のライフスタイルを経験していただけると思います。
それから大事なことを言い忘れていましたが、LECO 社が主催するワインテイスティングのイベントが予定されています。この委員会では以前に似たようなイベントをベルギーで開催しました。その時はウイスキーのテイスティングでした。大成功でうれしかったです。というのも、ただ酒を飲むのではなく化学と結びつけられていて、分析を行なったり化学組成について語り合ったりできたからです。こういったイベントはすごくクールだと思います。
それで、…大体こんなところでしょうかね。何か言い忘れてることがあるかもしれませんが、何度か申し上げたように、このイベントは本当に大好きなカンファレンスの 1 つなんです。名前は「ワークショップ」ですが。
本当に楽しみにしています。
もう 1 つお伝えしたいことがあるのですが、Journal of Chromatography A 誌とのコラボレーションで特別号が発行される予定です。
このイベントに参加される方も、今回は参加できない方も、この特別号に論文を投稿することができます。
詳しくは、LinkedIn や各メディアのウェブサイトをご覧ください。
また、新しい取り組みとして Labrulez と提携します。
Labrulez では既に昨年のプレゼンテーションの内容が投稿されていますが、今年の分も行なわれる予定です。
講話はすべて録画されて投稿されるので、いつでも再視聴が可能になります。
Labrulez についてはほかにもお伝えしたいことがありますが、これについてはカンファレンス中にお話したいと思います。
皆さんに楽しみにしていただけると思います。

Dave Russ:

それは素晴らしいですね。
Petr さんありがとうございました。
ワークショップへの行き方が皆さんにもわかるように、このポッドキャストが終わったらリンクを掲載しておきますね。
どうもありがとうございます。
ところで、私が本当に興味深いなと思うことの 1 つに、皆さんがそれぞれ取り組んでおられる進行中の研究があるんですが、ここで少し時間を取って、皆さんが個々のレベルでどんなことをしておられるのか、ちょっと教えていただきたいんです。
Katelyn さんから順番にお聞きしたいと思います。
現在取り組んでおられる研究について少し教えていただけますか?

Katelynn Perrault:

はい、もちろんです。お話できる機会があってうれしいです。
実は、バージニア州ウィリアムズバーグにあるウィリアム・アンド・メアリー大学に移ったばかりなんです。
より多くの研究を行なえるように、今はまだラボを立ち上げて稼働させるためにいろいろとやっているところです。
私のグループは、多次元クロマトグラフィーの理論と装置をラボで日常的に使用できるようにすることに集中しています。
主に、法医学ラボにおける GCGC の導入に変化をもたらしたいと思っています。
証拠品の分析が行なわれる科捜研のようなところについて考えてみてください。
私たちがやろうとしている研究は、日常的に多用されているワークフローにこうした新しいテクノロジーのいくつかを組み込むための方法を調査することなんです。
法医学において私たちが 1 つ懸念しているのは、こうした物事が法廷では新しいものや斬新なもの、先鋭的なものに見えたり、時には少し怖がられたりしてしまう、ということです。入念な裏付けのとれた、いわゆるゴールドスタンダード (絶対的基準) といったものが好まれます。
それで私たちは、こうしたテクノロジーが本当に利用しやすいもので十分な裏付けがとれており、日常的な応用分野で使うことができる、むしろ使うべきものだということを理解してもらうために、たくさんのデータを揃えようと頑張っています。

Dave Russ:

すごいですね。
どうもありがとうございます。
PH さん、いま取り組んでおられる研究について少し教えていただけますか?

PH Stefanuto:

はい、私の研究 ですが、Kate さんが今仰った内容と少し重複する部分があります。
私も、GCGC を日常的な応用分野により浸透させるべく取り組んでいます。
ただし私の場合は、生物医学研究を主な対象としています。
私のいるキャンパスに強力な大学病院がありまして、そこで生物学的マトリクス分析に GCGC を活用しようとしています。
私たちが主に対象としているのは呼気で、呼気分析を活用した新たな患者モニタリング手法を構築し、臨床医により多くの情報を得てもらおうと取り組んでいます。
一般的な言い方をすれば、私たちの夢は警察が使用する呼気分析装置に近いシステムを構築することです。ただしアルコールの投与はしません。
目指しているのは、ぜんそくや COPD といった慢性肺疾患を持つ患者さんの容体をモニタリングすることです。
これが、私が主に取り組んでいるものの 1 つです。そのために多次元クロマトグラフィーの基礎研究、とりわけデータ処理に関する研究も多く行なっています。膨大な量のデータを生成する関係で、これらを効率的に管理し、臨床医に強力な情報を提供するために、より強力なツールが必要になっています。

Dave Russ:

素晴らしいですね。
皆さん本当に素晴らしいお話を聞かせてくださっています。
どうもありがとうございます。
Dwight さん、いまラボで取り組んでおられる研究について少し教えていただけますか?

Dwight Stoll:

はい、もちろんです。Dave さんありがとうございます。
私たちのグループは、多次元液体クロマトグラフィーを専門としています。もちろん幅広い分野ですのでもう少し細かく説明しますと、この分野における私たちの強みは、ここ 5 年くらいでしょうかね、装置開発およびメソッド開発がメインになっています。
2 次元分離のシミュレーションに多くの労力を費やしてきました。
とは言え、私たちはこの強みを多様な応用分野で活用しています。
現時点で大きなものでは、製剤分析と生物薬剤分析 があります。
そして時々ですが、あちこちでちょっとした環境研究にも手を出したりしています。
一度などは、法医学をやっている方がラボを訪れたこともあります。もちろん私たちの専門ではないのですが。
それでも、さきほど Kate さんが仰っていたことに結び付けたい部分があります。
私たちもまた、この技術を専門知識に左右されないものにしたいと考えています。
それで、本物の専門家たちがいないラボにこの技術を導入して、この技術をより親しみやすいものにしようと取り組んでいます。
私たちの研究ではこの面が今最もエキサイティングで、新しいリテンションモデル の開発や改良のために大規模なデータセットの開発や応用に大きく力を入れているところです。
私たちがこの点に関心を持っている理由の 1 つは、究極的には私が自動運転装置と呼んでいるようなものを構築することにあります。1D および 2D クロマトグラフィーの両方で、自らが判読するデータに基づいて、どんな実験を実施するかなど、いくつかの決定を装置自体が行なえるシステムです。
例えば、特定の組み合わせの化合物で一定の分解能を達成するといったような実験目標が定義されている場合、自らが判読したデータに基づいて次にどんな実験を試すべきかを装置自体が決定できるというものです。
それで私たちにとって、元素の局所クロマトグラフィーのメソッドは、より多くの人を引き寄せるという観点では、ある種最後の…最後ではないかもしれませんが大きな障壁になっていると思います。多くの人が難しすぎる、複雑すぎる、怖すぎると感じていて、私たちはそうした障壁を取り払おうと今取り組んでいるところです。

Dave Russ:

ありがとうございます。感謝します。
Petr さん、ラボで現在進行中の研究について少し教えていただけますか?

Petr Vozka:

わかりました。私たちはそこまでクールな感じのことはしていません。
不快で臭いサンプルが私たちの研究対象です。
ほとんどの場合、これらはプラスチック廃棄物の解重合によって生成された代替燃料です。
それで基本的に、人々や研究者たちがタイヤやそのほかの一般的なゴミなどのプラスチック廃棄物を変換するのを手助けするのが私たちの仕事です。
目標はもちろんメソッドの開発ですが、さらにそのプロセスを調査し、プラスチックが解重合する間の反応経路の開発を手助けしたいと思っています。
また、新しいメソッドの開発にも注力しています。炭化水素の…炭化水素だけではないかもしれませんが、種類によっては、オレフィンなどの検出がまだ難しいものもあるためです。
このような複雑なサンプルの場合、炭化水素を定量する詳細なメソッドがまだ確立されていません。
また、プラスチック解重合に関して言えば、マイクロプラスチックの研究も進めています。粒子そのものではなく、その表面にどんな化合物が吸着しているかを調べています。
というのも、これらの化合物がわたしたちの体内でどうなっているのか、溶解 しているのかどうか、そして表面に吸着される可能性のあるものは何なのか、といったことに関して、文献や知識には大きなギャップがあるからです。
ほかにも小さなプロジェクトがたくさんあります。そのうちの 1 つは非常に興味深いもので、私の受け持ちの学生が MDCW 中にプレゼンを行う予定です。
それから、ヒトの指紋の化学組成の分析を行なっています。
目標にしているのは、犯罪現場に残された指紋をより多く解明することです。

Dave Russ:

ありがとうございました。
皆さん本当に素晴らしい研究に取り組んでおられますね。皆さんがそれぞれどんな仕事をされているのか、個人的なエピソードをもっとお聞きする機会があればと思います。
では、もう少し気楽な話題に行きましょうか。
皆さんがこれまでに分析したサンプルで一番興味深かったのは何ですか?
特に指名はしませんので、どなたでもお話しになりたい方から始めていただければと思います。

Petr Vozka:

ちなみに私は前回のポッドキャストでこの質問に答えましたので、ほかの委員会メンバーにお任せしたいと思います。

Katelynn Perrault:

では私から始めますね。どんなサンプルかとか、成分は何か、というような話はあまりできないのですが、実際の事件に関わるサンプルを分析する機会をもらう時はいつでも、すごくワクワクします。
警察機関とよく連携する必要がありますし、そこで私たちの取り組みが彼らのワークフローにどうフィットしているかを確認できるからです。
ほとんどの場合、こうした機会が訪れたとしても、普通は純粋に調査研究の見地からするもので、その時点では、何か法廷で実際に使われるようなものではありません。でも私にとっては、彼らの考え方を理解したり、私たちの化学研究がどんなふうに役に立っているかを知ったりする機会になっています。

Dave Russ:

ありがとうございます。
Dwight さん、PH さん、今まで分析したなかで興味深かったサンプルはありますか?

PH Stefanuto:

私の場合は博士課程の最後のプロジェクトがそうでした。指導教官が、「もうすぐ修了だから好きなことをやっていい。ただし、私の授業のコンテクストに沿ったものにしてくれ。そうすれば、今学期は私が教えなくて済むからね」と言って、ある程度の自由裁量を与えてくれたんです。
それで私が基本的にやったのは、「よし、世界中で生産されているトラピストビールを片っ端から 1 本ずつ買って、GCGC で分析しよう。」ということでした。過去の実験から、GCGC に必要なビールの量は 500 マイクロリットル程度で、あとはほぼフルボトルが私や学生たちのものとして残ると分かっていたんです。
それで、私にとってはすごく楽しい学期になり、本当にいい経験をさせてもらいました。単に授業中にビールを飲めた、ということだけではなくて、最終的には学生たちが本当に主体的にこの手法に向き合ってくれたからです。ビールによってどんな違いがあるかを知ろうと臭いをかいだり、背後にある化学反応を見ようとしたりしていました。
学生たちがこのプロジェクトに意欲的に取り組んでくれたおかげで、この分野でも大手の学術誌の 1 つに論文を発表することができました。
それで、自分が自発的に授業に関り、その熱意を教室に持ち込むことができれば、学生たちにとって実に生産的なものとなり、学習面でもプロジェクトを完結させるという意味でも実りあるものとなる、ということが分かりました。
それで、私にとっては本当にいい経験になりました。ビールの分析なんてちょっとふざけたような感じですが、ベルギーのラボらしくて最終的には素敵な話になったと思います。

Dave Russ:

すごくいいですね。

Katelynn Perrault:

まさしくベルギー風だなって思いましたよ。

Dave Russ:

すごくいい話でした。
Dwight さん、ご経験から何か得たものはありますか?

Dwight Stoll:

皆さんのお話と張り合うのはかなり難しそうですね。
それほどいい話がないんです。
でも思うに、私の考えでは、モノの中身を知るためのメソッドや方法論に関心がある人にとって、この分野は本当に働いて楽しいんじゃないかと思います。なにがしかの複雑さを持つサンプルに触れると、その中には何があるんだろうと考えさせてくれます。
私たちはここ数年、Polysorbate 80 、または PS80、あるいは Tween として知られるものを使用する人たちについて研究してきました。近年一部の薬剤製品に添加剤として使用されているものです。この物質を調べてみると、実に様々なものが存在していることがすぐに分かってきて、非常に興味深いものです。
一方ではこうして興味をそそる化学パズルではあるのですが、もう一方では、先ほど PH さんが仰ったことの繰り返しになりますが、より優れたデータマイニングツールが必要になっています。
いつも受け持ちの学生たちに言っているんですが、ハードディスクはすぐにいっぱいになるのに、そのデータを見るのに何か月も費やすことになってしまうんです。
それで、私たちが分析している物質の興味深さと、同時にこの分野に存在する大きな課題という両方の側面を改めて認識させられています。

Dave Russ:

誰にとってもそうかもしれませんが、データ分析にはまだこの先ある程度の伸びしろがあって、人々の生活に役立つ機会がありそうですね。
いいですね。そのほかに皆さんが取り組んでおられることでシェアしていただけることはありますか?
皆さんの受け持ちの学生たちのことや、来年予定している展示会のことやプレゼンテーションのことでも構いません。
ぜひリスナーの皆さんにご紹介ください。

Petr Vozka:

1 つ追加情報ですが、昨日カンファレンスのプログラムがウェブサイトに掲載されました。
いまお聴きの皆さん、ウェブサイトにアクセスしていただければ予定されている講演やプレゼンテーションなどすべて確認できる状態になっていますので、ぜひご覧ください。

Dave Russ:

ありがとうございます。

PH Stefanuto:

私からも付け加えさせていただきます。何度か申し上げていますが、前回の委員会でも改めてすごいなと思わされたことです。
このイベントは完全に無料なんです。
とにかく 1 月、LA に来ていただければ、あとのことは心配いりません。科学的なプログラムも、交流会も、宿泊できるホテルも全部揃っています。
このワークショップに参加しない理由はありませんよ。

Dave Russ:

Petr さんがお天気もコントロールしてくれるといいですね。

Petr Vozka:

そうですね…必要なものはすべて揃っています。

Katelynn Perrault:

今のところ、ポスタープレゼンテーションを屋外で開催できたらと思って計画中なんです。
当日お天気が味方してくれるかどうか分かりませんが、気候に関して言えば、1 月に LA にいられるのは多くの人にとって楽しいことだと思います。
最初の 9 年間はカナダで 1 月に開催していたことを思い出しますが、ほとんどの場合ブーツを履いてパーカーを着てという感じでしたので、屋外を楽しむという感じは全然なかったです。
今回は LA で開催できるのでちょっと楽しみです。

Dave Russ:

本当にそうですね。

Petr Vozka:

誰かがカリフォルニアから来たかどうかって、一目でわかりますよね。

Dave Russ:

それはなかなか面白いですね。

Petr Vozka:

向こうの人たちって、大体短パン姿で、多分カンファレンスにも短パンで入ってくると思います。あの人はカリフォルニアから来たんだなってすぐに分かりますよ。

Dave Russ:

ビタミン D に勝るものはないってことですよね。
来年の MDCW、2025 年は東のほうで開催するそうですね。
これは本当ですか。

PH Stefanuto:

2025 年のワークショップは、ヨーロッパに戻ってリエージュで開催します。
今から予定を入れられるように日付を申し上げますと、2025 年 2 月 3 日から 5 日です。お天気は多分カリフォルニアのようにはいきませんが、ビールが飲めますよ。
ぜひ参加をご計画ください。次回もスピリットは変わりません。
私たちが目指しているのは、このワークショップを継続することでこの分野の技術を促進し、コミュニティを築くことです。ぜひソーシャルメディアやウェブサイトで私たちをフォローしてください。

Dave Russ:

皆さん本日は本当にありがとうございました。
お時間を割いて専門知識をシェアしてくださり感謝します。ワークショップについても教えてくださりありがとうございました。
本日のポッドキャストで話題になった LECO 社の装置に関心をお持ちの方は、leco.com で詳細をご確認いただけます。
2024 年 1 月に Vozka 教授のラボで開催される Multi-Dimensional Chromatography Workshop のリンクをショーノートに掲載しておきます。
今回の Measured Science のエピソードにもお聴き下さり、ありがとうございました。
またのお越しをお待ちしております。化学分析の新たなトピックをお楽しみに。